農園REPORT

長田杏奈さんが見た秋の椿農園〈前編〉

「収穫祭」をテーマにした農園ツアーにお越しくださった長田杏奈さん。農園で感じた様子をレポートしていただきました。

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椿は、日本の文化や美容と切り離せない特別な植物。装飾を排した茶室に、凛と一輪で飾られ、実から搾った滋養たっぷりの油は古くから髪や肌のケアに活かされてきた。

椿の楚々とした佇まいが好きで、何品種か育てたり名所を訪れたりしてきた。そんな中で耳にするのが「行き着くのは藪椿(ヤブツバキ)」という合言葉だ。何百種ものの園芸品種を育てた名人も、最終的には野趣溢れる薮椿の魅力に落ち着くらしい。だから、マニアの端くれである私にとって藪椿は憧れの存在。苗を取り寄せて愛でつつ「いつか薮椿が自生する五島列島を旅してみたい」と願っていた。そんな思いが通じたのか、機会は早々にやってきた。薮椿の恵みを閉じ込めたスキンケア「ON&DO」から、原料となる椿の実の収穫祭に招待されたのだ。

長崎の五島列島 福江島にある「五島ヤブツバキ王国」は、薮椿が自生する原生林を丸ごと丹精込めて手入れした五島最大の椿農園。約4ヘクタールの敷地には、約1万本の薮椿が伸び伸びと育っている。

農作業用の黒い長靴にブカブカと履き替え、車が通れないほど細い溶岩石で縁取られた道を行く。両脇には、見渡す限りの、薮椿、薮椿、薮椿! 庭で育てているのとはまったくちがう、たくましい樹勢に圧倒される。すぐそばにはゴツゴツと荒々しい海岸があって、水平線を見渡して「あっちが大陸で、こっちが本州」と教えてもらう。下草を踏み分けると、バッタやコオロギがぴょんぴょん飛び回る。草を刈りすぎると照り返しで木が傷むので、あえて生やしているのだそう。いたるところに、ニホンミツバチの巣箱が置いてあって、自然の循環にリスペクトがある人たちが楽しみながらやっている農園なんだとわかる。

名物管理人さんは、椿の木一本一本を「社員」として大切に愛で、日々目を配る。「あー、新芽出てきたね。いま若葉を作っているの?」なんて話しかけながら。

個性豊かな社員たちの中でひときわ目立つのは、赤熟した実をひときわすずなりにつけた一本。幹に巻かれている色とりどりのテープは、花や実のつきが良かった木をそれぞれ見分けるための目印なのだそう。花が多かったからといって、実がたくさんなるわけではない。去年豊作でも今年も同じとは限らない。半分野生のようなちょっと気まぐれな社員たちと向き合いながら、人間はその恵みをお裾分けしてもらう。

〈レポーター〉​

長田 杏奈さん

ライターとして、美容をメインにインタビューやフェムケアなどを執筆。また椿がきっかけで園芸にはまり、十数品種を栽培するほどの椿マニア。podcast「なんかなんかコスメ」を配信中。著書「美容は自尊心の筋トレ」など。