連載
芽吹いたばかりの若葉を、
私たちは、摘みます。

Vol.2 農園の管理人のおはなし。

幼いころからずっと農業をしたいと思っていて、はじめてそれが実現したのがこの五島列島の椿農園でした。

実際どうですかと聞かれ、ひとことで答えるならば、大変です。
もちろん天候に左右されるだとか肉体労働だとか、そういう話もあるけれど、僕はもっと困っていることがあります。

それは、椿たちが、言葉を発さないこと。

この生き物は、何を考えとるか、わからん。教えてくれん。
体調が悪くてもすぐに教えてくれないし、体調が悪そうだなと何かを施してみてもやっぱりすぐには教えてくれない。だけど必ずどこかしらに表情が出てくるはずで、僕はいつもそれを感じとろうと必死で、それが難しくて、本当に大変なのです。

季節が切り替わり始めるころ、それはもう気が気ではありません。本来起こるはずの変化が、ちゃんとこの子にも訪れるか。本来できるはずの新しいモノが、ちゃんとあの子にもできるか…。

迎えた、春。
明確に表情が出てくるこの季節。

「ああ、よかった…。大丈夫や、こいつは生きとる…!! 」

若葉の芽を出し始めた我が子を見つけては、嬉しくてホッとして、勇気が出て、そして何とも言えない気持ちが湧いてきました。

若葉は、すべてのはじまりです。実ができ種が育つのもその先で、蕾がふくらみ花が咲くのも、たっぷりの葉がたっぷりのエネルギーを生み出しているから。

それを、僕は、摘むのです。
なにも痛めつけようと思って摘むわけではないので“罪悪感”とは少し違うのだけれど、厳かな気持ちと、深い感謝と、ちょっとだけ我が子の独り立ちを見送るかのような、前向きな寂しさと。

「良いカタチで世の中に出て行けよ~!
 大切に使わん奴には絶対に渡してやらんからな!!」
そう心の中で若葉へ餞の言葉をかけながら、今年も1枚1枚、摘みました。

ちいさな芽、ちいさな実、ちいさな蕾、、、
この物静かな生き物のちいさな変化に気づくたび、僕は生きる力をもらっています。

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REFRESHING MIST

今年摘めた若葉の分だけ、3,500本限定。